BRIGHT STORY

2026年4月14日

AIで会話の“たね”を育てるアプリ、「ことたね」プロジェクト
  • # 社内プロジェクト
  • # AI生成コンテンツ
AIの力とクリエイティブの視点で、親子の会話にアプローチする「ことたね」アプリ制作プロジェクト。監修に携わっていただいた言語聴覚士のお二方と共に、プロジェクトの裏側をご紹介します。

黒澤 大樹

言語聴覚士

吃音※を専門とする言語聴覚士。幼児から成人まで全年齢を対象とした吃音の相談室「吃音・ことばの相談室くろさわ」を主宰。これまで経験した吃音臨床は200件以上。自身も吃音当事者。

田中 春野

言語聴覚士

小児の言語発達を専門として、大学病院のリハビリテーション科や発達相談センターに勤務。第1子の育休中からSNSで情報発信を始める。現在はキッズクリニックに勤務しつつ、フリーランスとしても働く。

松川 美沙

プロジェクトリーダー / アートディレクター

2012年入社
当社のAIコンテンツ制作チームで「AIマイモン」の制作・広報を行っていたことなどをきっかけに、ことたねプロジェクトを立ち上げる。プロジェクトリーダーとして企画・進行・アートディレクションを務める。

保坂 一樹

プログラマー

2022年入社
ことたねのアプリ実装を担当。普段はAR・VRや、壁面センサーによるインタラクティブ体験コンテンツのプログラムを手掛ける。

柳川 大知

デザイナー

2024年入社
ことたねのアプリUIやキャラクターデザインを制作。普段はwebサイトやSNSのデザインに従事。
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※吃音(きつおん、どもること)は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害のひとつです。単に「滑らかに話せない(非流ちょう)」と言ってもいろいろな症状があり、吃音に特徴的な非流ちょうは、以下の3つです。

・音のくりかえし(連発) 例:「か、か、からす」
・引き伸ばし(伸発) 例:「かーーらす」
・ことばを出せずに間があいてしまう(難発、ブロック) 例:「・・・・からす」

上記のような話し方が、発話の流ちょうさ(滑らかさ・リズミカルな流れ)を著しく乱すほど頻繁にみられる場合に、吃音と定義されています。

出典:国立障害者リハビリテーションセンター

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AIが社会課題にもたらす可能性

言語聴覚士であるお二人がビービーメディアと関わるようになったきっかけを教えてください。

黒澤

私は普段、吃音のあるお子さんのサポートを行っているのですが、その中の方法の一つに「リッカムプログラム※」というものがあります。それに活用できる教材を探していた時に、妻が「AIマイモン」を見つけてくれたことが最初のきっかけとなりました。
※リッカムプログラムとは、主に6歳以下の吃音のあるお子さんを対象とした治療法。吃音のあるお子さんが流ちょうに話せる遊び・課題を通して、流ちょうに言えたことを言葉掛けで強化する、行動療法の一種。専門家と保護者が協力し、家庭で取り組むホームプログラムでもある。幼児期の吃音の治療法の中ではエビデンスレベルが高く、世界中で注目されている。

ビービーメディアの自社プロジェクトのひとつ、AIマイモン。好きなキーワードを2つ入力すると、AIによって自動的にモンスターが生成される。
AIマイモン:https://www.bbmedia.co.jp/wsd/mymon/ja/

黒澤

実際にリッカムプログラムでAI マイモンを使ってみたところ、子どもたち…特に吃音の相談が多い5、6歳の男の子の反応がすごく良かったんです。そのことをXで呟いたら、AIマイモンの公式アカウント(松川さん)から「リッカムプログラムって何だ?」というリプライがあり、メッセージのやりとりが始まりました。

松川

黒澤さんのつぶやきを見たときに、言語聴覚士の方にAIマイモンを活用してもらえてることに心から驚きました!自分の入れた言葉で新たなものを創造する過程を純粋に楽しんでもらうことを想定していたので、何かの役に立っていることを知って、「そういう使い方があるんだ」とハッとさせられましたね。

「AIマイモン」は、どういった点がリッカムプログラムに活かされたのでしょうか。

黒澤

リッカムプログラムは、吃音を抱える子どもたちに何かしらの言葉を喋らせる練習なのですが、AIマイモンの、2つのものを選んで合体させる、というゲームの流れがそのまま練習に使えたことが大きかったです。好きな言葉を選んでもらって、その言葉がモンスターの一部になっていたら「あ、ここにさっき言ったやつ入ってるね」という会話が自然に生まれるじゃないですか。
あとは、生成AIで無限に新しい教材が作れることも非常にありがたかったです。

田中

私たち言語聴覚士は、使える教材の数に限りがあるという問題を抱えています。もちろん市販品やネット上で公開されているものを活用することもありますが、お子さんへのアプローチはそれぞれオーダーメイドなので、一人ひとりに合った教材を探したり、作ったりするのはどうしても労力がかかります。その点、入れる言葉次第でお子さんに合わせた教材を無限に増やせる生成AIは魅力的ですね。

松川

そういった言語聴覚士の方の現状をお伺いするうちに、「生成AIを使った、子どもたちのサポートになるサービスが開発できるのではないか」と思い立って、ことたねプロジェクトの立ち上げに繋がりました。

黒澤

当初は私一人で会議に参加していましたが、吃音の場面だけでなく、幅広いお子さんに使っていただけるアプリにしたいという話になった時、子どもの発達全般に関する臨床知識が必要だと感じて、かねてから知り合いだった田中さんをお誘いして、言語聴覚士2人とビービーメディアのみなさん、という体制になっています。

言語聴覚士の監修のもと
生まれたアプリ「ことたね」

「ことたね」について教えてください。

保坂

ことたねは、吃音のサポートでも重要になる「会話をすること」そのものを、ゲームを通じて楽しく促すことを目的としたアプリです。保護者や言語聴覚士の方が、お子さんと一緒に遊びながら、自然と会話が生まれるような4つのゲームが用意されています。

・キャラメーカー
好きな言葉を入力すると、AIがその言葉をもとにお姫様・ロボット・モンスターなどのキャラクターを生成する遊び。

・これ なあに?
ユニークなAI画像を見て「これは◯◯に見える!」と想像をふくらませるクイズ形式の遊び。

・ふしぎをみつけよう!
AIがつくった3枚の画像を見比べて、ちょっと変なところや不思議な部分を探すゲーム。

・⚪︎⚪︎はどこ?
背景絵に隠れたお題のイラストを探すゲーム。

ことたね アプリ内のイメージ。

柳川

これらのゲームは、明確な正解を出すことよりも「会話が生まれやすいこと」を一番に考えて設計されています。例えば『ふしぎをみつけよう!』では、大人から見れば当たり前のことでも、子どもの視点では「ここが変だよ!」という発見があったりする。そのズレ自体が、親子のコミュニケーションを豊かにしてくれるんです。

保坂

ゲームとして優れていることももちろん大事なことなんですけど、多少の違和感があることで会話が弾む時ってあるじゃないですか。その点ではAIのちょっと正確じゃないところが、うまくはまったゲームだと思います。

松川

実際に私の次男(4歳)は『ふしぎをみつけよう!』が好きで、現実世界でも「あそこの車はおかしい!」なんて言い出します(笑)物事を多角的に見るきっかけになっているみたいで、面白い効果だなと感じています。

制作にあたって、どんな工夫をしましたか?

柳川

アプリの楽しさが伝わる、かつユーザーである親子がネガティブなイメージを持たないようなネーミングとデザインを意識しました。

松川

ネーミングについては社内アンケートをしたり、黒澤さん、田中さんへのヒアリングを何回も繰り返して決めましたよね。最終的に「言葉の種を育てる」というストーリーにたどり着き、「ことたね」というネーミングが生まれました。

柳川

そうですね。そこから着想を得て、「あ」から「ん」までの五十音のキャラクター「こともじ」を作りました。一日一回ゲームをすることで、こともじが一つずつもらえるという要素を付けて、楽しく続けてもらうための工夫をしています。

保坂

実装面では、AIの調整を慎重に行いました。特に『ふしぎをみつけよう!』で、AIにちょうどいい塩梅のおかしな絵を生成させるのが難しかったですね。プロンプト(指示文)を日本語で書くか英語で書くか、長くするか短くするかで結果が全く変わってくるので、試行錯誤の連続でした。その甲斐もあってお子さんにとって面白いものができたと思っています。

監修にあたって、どんなことを意識しましたか?

黒澤

吃音がないお子さんでも親子で会話を楽しむツールとして使えることを目指しつつ、私自身の臨床経験から、「吃音臨床の現場で使うなら、こうだったら良いな」という視点で、具体的なアドバイスをさせてもらいました。例えば、『これ なあに?』というゲームでは、出てくる言葉の最初の音を制限できるようにしています。これは、吃音で特定の音が苦手なお子さんがいるため、苦手な音の練習をしたり、逆に苦手な音を避けたりできると良いと考えたからです。

田中

私は、保護者の方がゲームやスマホを子育てに使うことに対するネガティブな意識や罪悪感を軽減して、コミュニケーションのツールの一つとして使ってもらえるように意識しました。保護者向けのアドバイスでは難しい専門用語を避け、優しい言葉遣いを心がけています。
吃音臨床、特にリッカムプログラムでは、私たち言語聴覚士との練習以上に、家庭での継続的な取り組みが不可欠なので、保護者の方の前向きな関わりが非常に重要になります。私たちが監修することによって、保護者の方がよりポジティブな気持ちでこのアプリを使えるようになれば良いなと思っています。

反響はどうでしたか?

保坂

黒澤さん、田中さんのところ相談に来る方々をはじめとして、お二人の知り合いの言語聴覚士の方や、小学校の授業で使ってもらったりと、様々な方にフィードバックをいただいています。やっぱりAIで毎回新しい教材を作れることや、アプリで手軽に利用できることに高評価をいただくことが多いです。

松川

アプリが縦画面なおかげで、zoomなどで画面共有したときに半分にアプリ画面、半分にお子さんを映すことができて便利、という当初想定していなかった活用方法を聞いたりして、「そんな使い方もあるんだな~」と思いました。

黒澤

私はオンラインでも吃音の相談を行っているのですが、日本全国にいるみなさんとzoomを繋いで会話する際に、教材がアナログなものだとどうしても共有がしにくいんですよね。その点、デジタルで簡単に共有できるのはとても有効的です。

クリエイティブの力が
“誰か”の役に立つこと

ビービーメディアのメンバーは、どういった想いでこのプロジェクトに取り組んでいますか?

松川

私の家族に、構音障がいという流ちょうに話すことが難しい人がいて、会話が得意じゃないとQOLに影響があったり、初対面の評価が変わってしまう現状を身近で見てきました。そういった個人的な境遇もあり、困っている人の役に立つようなプロダクト開発ができるのであればぜひやりたいと思って、このプロジェクトを立ち上げました。
普段関わっている広告は、クライアントさんの課題解決を目的として制作することが多く、その先にいるエンドユーザーや、特定の“誰か”の個人的な困りごとを直接解決している場面はあまり見る機会がないんですよね。今回このプロジェクトを通して、私のやったことが人の役に立っている場面をたくさん見ることができて、とても嬉しく思います。

保坂

僕は以前、別の案件で、ディスレクシアという学習障がいを持つ人の世界を体験するVRコンテンツを開発していました。その案件を通して社会課題への興味を深めていたところにこのプロジェクトのお話をいただいて、是非、という感じで参加しました。
実際に実装するにあたって、ゲームとしての楽しさは大事にしつつ、「言葉を促す」という一番の目的をぶらさないように意識しました。自分はこういったアプリを通して、言語聴覚士の方とはちょっと違うアプローチの仕方で社会課題を解決できる、ということにすごくやりがいを感じています。

柳川

僕もデザイナーとして、前々からデザインの考え方を社会課題の解決に使ってみたいという想いがありました。普段携わっているクライアントワークの広告とは少し違って、エンドユーザーから直接意見をもらいながらデザインができて、良い刺激になりました。僕自身も子どもがいるので、ターゲットである親子のことも自分ごと化しやすかったです。

「ことたね」が生み出す
未来への“たね”

これから、「ことたね」をどのように活用していきたいですか?

黒澤

まずは、私自身の臨床で、リッカムプログラムをはじめとする吃音の練習の教材として、引き続き活用していきたいと考えています。そして、他の言語聴覚士の皆さんにもぜひ使っていただき「こんなアプリがあるんだ」と、言語聴覚士のコミュニティの中で広まってくれると嬉しいですね。
また、ことたねは吃音臨床を名目上の目的とはしていません。なので、私がリッカムプログラムで使ったAIマイモンのように、想像していないような使い方をどこかの誰かがしてくれることにも期待しています。

松川

まさに今後、障がい支援のスポーツコミュニティの方にAIマイモンを使っていただく機会があるので、ことたねも使ってもらえるようにお願いする予定です!

黒澤

そうなんですね。そういった幅を広げた使われ方が見られると嬉しいですね。

田中

黒澤さんのお話に通じるところがありますが、今回の想定年齢である未就学のお子さん以外にも、小学生低学年のお子さんくらいまで対象年齢を広げられる可能性があると思っています。例えば、小学生の学習支援ツールとして、通級指導※の先生方にもおすすめできるのではないかなとか…。
※通常の学級に在籍している障がいのある児童生徒に対して、大部分の授業を通常の学級で行いながら、一部の授業について障がいに応じた特別の指導(自立活動)を、特別な指導の場(通級指導教室)で行う指導形態。

また、言語聴覚士の業界は公的機関含めてまだまだアナログな部分が多く、みなさん試行錯誤している段階です。現代の子どもたちはデジタルに触れて生活している世代ですから、ことたねをきっかけに、ぜひ指導者側の方にもデジタルツールに慣れていただけたら嬉しいですね。保護者の方にとっても、私たち言語聴覚士の手を離れてもアプリを通じて言葉の練習の手助けができることを願っています。

ビービーメディアのメンバーはどうでしょうか。

松川

まずは、ことたねプロジェクトを継続していくための仕組みづくりと、より多くの人に届けるための広報活動に力を入れていきたいです。そして、このプロジェクトを通じて得た「多様な立場の人を知り、世界を広げる」という経験を、会社全体のダイバーシティ&インクルージョンの動きに繋げていきたいと思っています。

保坂

先ほどの話にも重なるのですが、自分の技術で社会課題を解決できることにすごく興味があるので、困っている人にとってより使いやすいものを作れるように知見を溜めていきたいです。あと、このプロジェクトのポイントである「AIの不完全なところを逆手に取る」というのはほかにも有効活用できるんじゃないかなと思っているので、可能性を探っていきたいですね。

柳川

「吃音」という問題に「AI」のような全く別のところを組み合わせることで、問題を抱えている当事者以外の方にも理解や興味が広がっていくようなことってあると思います。なので、ことたねを通して、吃音の当事者だけでなく、周りの人々にもその理解が広がれば嬉しいですね。そしてもちろん、より多くのお子さんやご家庭の“会話のたね”として活用していただけることを願っています。