No.5

想いを形にする”ものづくり”が、
地域の課題解決に

極楽浄土AR

AR技術を用いて阿弥陀如来や内陣の彫刻が動き出し、浄土の哲学を可視化して伝える体験型コンテンツ、『極楽浄土AR』。新潟県小千谷(おぢや)市平成にある、浄土真宗本願寺派の極楽寺で体験できるこの新しい”見える法話”はその斬新なアイデアが話題となり、多数のメディアに取り上げていただきました。仏教とARという、一見交わることがないように見えるふたつのテーマを融合させ、これまでにないコミュニケーションへと昇華した制作の背景とは。

  • 佐久間 陽|TVCMディレクター

    2000年入社
    TVCM、Web動画を中心に企画演出の仕事に従事。動画だけでなく、様々な案件でディレクション・演出を担当。

  • 森田 裕美|プランニングディレクター

    2000年入社
    Webデザイナーを経て、新しいコミュニケーションを幅広く企画・提案を行うプランナー兼、2020年春よりBBmediaのカルチャーオフィサー(CBO)に就任。

  • 木戸 達也|テクニカルディレクター

    2001年入社
    インタラクティブ部門でFlashクリエイターとして数々のコンテンツを制作した後、アプリ開発へ移行。現在は体験型コンテンツの開発やAR/VRコンテンツの開発に力を入れている。

日本文化の新しい体験を生み出す
”Brand J Project”

今回のプロジェクトは、ビービーメディアの”Brand J Project”※がきっかけと伺いました。
※日本文化を新しい体験コンテンツに昇華することで、日本人が持つ精神性を次世代や世界へと継承していく取り組み

森田 そうですね。弊社にはARやVR、音声認識などの技術でデジタルのものづくりを行うテクノロジープランニング(通称テクプラ)部門があるのですが、そのメンバーが中心となって制作をしています。2017年くらいから、メンバーで自社コンテンツのアイデアソンを定期的に実施していました。当時VRのヘッドセットだけでなく、指の動きを検知するセンサーが内蔵されたコントローラーが新しく出たタイミングで、それを上手く活用した施策として、VR空間で生け花を体験する『IKEBANA VR EXPERIENCE』の制作に取り組んだことがきっかけで生まれたプロジェクトです。

では『極楽寺AR』は、『IKEBANA VR EXPERIENCE』の次に始まった、
”Brand J Project”が波及したプロジェクトということでしょうか?

森田 はい。『IKEBANA VR EXPERIENCE』を制作したメンバーで、「次も作りたいね」という話になって。メンバーの中の外部アートディレクターの方との繋がりで極楽寺さんと出会いました。日本全体の人口減少において地方のお寺の存在価値を様々な形で模索されている住職(麻田さん)で、「デジタルを取り入れたら、新しい檀家さんとのコミュニケーションをデザインできるのではないか」という仮説を元にビービーメディアにお越しくださって、どんな取り組みを実現できるか話し合う機会をいただき、内容を詰めていきました。

佐久間 住職さんも、極楽寺の檀家さんたちもすごくクリエイティブで。一見、お寺とデジタルってあまり馴染まないように思うかも知れないのですが、そこに可能性を感じて受け入れてくださったんです。

森田 極楽寺は、400年もの歴史がある素晴らしいお寺なんですよね。新潟で起きた中越地震をきっかけに毎年お寺でイベントを開催していたり、最近だと新型コロナウイルスの影響で休校になってしまった子どもたちの居場所として、お堂をオープンしていたり。住職の麻田さんはお寺のお勤めの傍で、消しゴムはんこ作家としてもご活躍されています!

“そこにしかない”体験

制作において、大変だったことはありますか?

木戸 お寺が新潟県小千谷市というところにあるので、そんなに気軽には現地に行けないですからね。やっぱり、お寺のお堂は広さがあるので、会社の限られたスペースでは動作確認が難しかったです。

森田 逆になかなか行けないからこそ、現地で見たときの感動はとっても大きかったですよ。ARならではというか、その空間に合わせた演出の価値を感じましたね。今の時代、スマートフォンさえあれば、いつでもどこでも体験できるコンテンツもありますが、やっぱり現地に来てもらった上で体験するコンテンツには別の良さがあります。「新潟ではない場所で同じARをやろう」という話も上がったのですが、やはり元々のコンセプトが違うから、あえて展開をさせなかったこともありました。

木戸 あと難しかったのは、コンテンツ自体の内容ですね。極楽浄土ARは"見える法話"というコンセプトですが、その完成形をイメージするのが大変でした。実際にどういう流れで、どういうお話をされながら見ていただくのか、それによって最適な見せ方が変わってくると思います。AR自体が結構イメージしにくいものですし、技術面からも良い使い方を提案したかったのですが、最終形を理解するまでには少し時間がかかりました。

佐久間 確かに。そこは住職さんが持っているイメージと、こちらで表現できる部分をすり合わせて、少しずつ形にしていった感じですよね。

想いを形にする

ビービーメディアならではといいますか、ユニークさを感じた場面はありましたか?

木戸 とりあえず佐久間さんがコンテを描けるっていうことかな(笑)。

佐久間 普段はARよりも、CMの企画演出を担当することが多いからね。

佐久間さんの描いた施策段階の絵コンテ。
龍や阿弥陀如来などのモチーフをもとに、AR全体の流れを作り上げていった。

森田 確かに。CM制作の過程で培った技術って、こういうARのコミュニケーションにも役立つんだなって。

佐久間 あまりARの案件は多くはないから、コンテを描くのも「これで大丈夫かな?」っていう思いは少しあったけど。でもこれから、CM以外のこともやってみたいなとは思いますね。ビービーメディアには、ARやVRの技術を持つテクプラのメンバーが居るから。いろんなことが実現可能な環境にいるので、今回の極楽浄土ARのようなプロジェクトをもっとやりたいなと思います。

森田 ”Brand J Project”自体も、ちょっとユニークですよね。今回に限らず、社内には様々なプロジェクトがあるので。何か別のテーマで新しい施策が出来たら、とも考えています。例えば、個人的に関心がある”教育”と”食”の分野で何かできないか、とか。

佐久間 ”Brand J Project”もアイデアソンから始まったわけだし、個人のアイデアをすくいあげて、ちゃんと形にできる技術があるというのは、ビービーメディアの強みでもあるかなぁ。

空間になじむ演出

iPadのケースもお寺の雰囲気に合うように制作されていますよね。

森田 これは外部のプロダクトデザイナーとアートディレクターの方がデジタルデバイスの在り方からディスカッションを進め、制作してくださったんです。iPadがドーン!と置いてあるだけだと、やっぱりお寺の雰囲気とか、華やかな装飾に合わないんですよね。「あの空間になじむものって何だろう?」って、みんなでブレインストーミングをして考えていきました。最終的に、本当に空間にマッチしたデザインに仕上がりましたよね。

佐久間 これiPadだよね?って(笑)

森田 本当に、持って帰りたいくらい!普通に売っててもおかしくないくらい、素敵な仕上がりですよ。

空間演出にこだわっているのですね。

森田 実は、音楽にもこだわってまして。ARをスタートすると雅楽の音色が流れるのですが、あれは購入した素材ではなく、住職のお知り合いの方が演奏したものなんです。見てくれる人がお寺とデジタルという組み合わせに違和感を覚えないように、場の雰囲気を大切にして制作していきました。

地域の魅力

佐久間 大々的な地方創生活動、とまではいかないけれど、狭いコミュニティの中で「AR、面白いね」みたいに広がってくれたら嬉しいですよね。ARがあることで、お寺の存在を少しでも近くに感じていただけたら。

森田 そうですよね。お寺と言うと、ちょっと堅苦しい印象を持つ方もいると思うんです。でもこうしたツールがあることで、普段はお寺と距離がある子どもや若い世代も「面白そうだから行ってみよう」と感じてくれたり、「難しい法話が理解できた」と新しい発見を持ち帰ってくれたりしました。極楽浄土ARはテレビ局や雑誌にも取材していただいたり、文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品として選出していただいたりしていて。地方でのユニークな取り組みとして、微力ながら発信に貢献できていると嬉しいですね。人口減少をはじめとする地方の課題って、きっと日本全国のいろんな場所が抱えているから、今回のようにデジタルを通してもっと地方の魅力を広めていけるのではないか、と思っています。

”Brand J Project”の今後については計画しているのでしょうか?

森田 途中まで企画の話が進んでいたんですが、新型コロナウイルスの影響でペンディングになってしまって…。

木戸 人の移動がどうしても制限されているからね。でも、例えば京都のお寺で別の体験型コンテンツを作るとか、何かしら展開させていきたいですよね。

佐久間 地方の課題にあわせてローカライズしたりとか、なんだか可能性は無限にありそうですよね。

森田 このプロジェクトは、日本文化をデジタルと掛け合わせて私たち自身も知らなかった日本の良さを再発見しながら新しい体験を生み出す、という軸があるので。そこからブレずに、この先も新しいチャレンジを続けていきたいです。

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