アプローチはいっぱい、
表現は様々、思いは一つ
KITTE「WHITE TREE LETTER」
2015年から2年続けて丸の内の商業施設「KITTE」のクリスマスツリーの下で行なった施策『WHITE TREE LETTER』『WHITE BREATH THEATER』は大変な盛況をいただき、『WHITE TREE LETTER』は第55回JAA広告賞消費者が選んだ広告コンクール ベストパートナー賞を受賞するまでに至りました。今では当たり前になった数多あるデジタルコンテンツの中から、なぜこの作品がユーザーの心をつかんだのか、デジタルがインターネットの世界からリアルの世界に溶け出してきた現代における創作とは。本案件に携わった田中宏大、楊暁東に伺います。
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田中 宏大|TVCMディレクター
2007年入社
インタラクティブ部門でFlashクリエイターとして勤務後、現在映像ディレクターとして活動。アニメーションからデジタルの経験を生かした映像・デジタル作品を中心に制作している。 -
楊 暁東|モーショングラフィックデザイナー
2015年入社
CGの制作会社を経て、現在はVR・ARを中心に3DCGの制作を担当。代表作に映画「神様の言う通り」、映画「テラフォーマーズ」、CM「トヨタ」「日清」など。
メッセージは不可欠
- 『WHITE TREE LETTER』(2015)制作の経緯について教えてください。
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田中 2014年に毎年行われているKITTEのクリスマスツリーの記録映像制作
の依頼をいただいたのがきっかけです。当時ちょうどデジタル花火等の面白い企画をしているのもあって、「来年はやらせてください」という話をしたら仕事になったというのがそもそものスタートですね。2015年はスマートフォン上でクリスマスツリーが動き出すというベーシックな企画案が既にあって、ビービーメディアには映像と仕組みの期待をされて仕事が来た感じです。時間はあまり無かったのですが少しアイデアを出す余裕があったので、「手紙だからメッセージをつけられたらよくないですか?」っていう提案をブレインストーミングの段階でしたら、「いいね!」とそのアイデアが採用されました。
KITTEらしさ、はがき・日本郵政らしさを出すためにメッセージは不可欠だと思っていましたし、ちょうどその時期にとある展示で、その場で書いた自分の字が、そのまま自分の筆跡で映し出されるという作品を見て、筆跡という物にはストーリーがあって、書く行為自体に想いみたいなのが込められているなっていう思いがあって、「メッセージを送る」という仕組みを入れることで作品の強度が増すと確信していましたし、実現したいという思いは強かったです。
今までにない仕事
- クリスマスツリーの映像について教えてください。
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楊 ちょうど入社した時にこの仕事が始まったので、環境が整っていない状態で仕事が始まって、演出的にやりたいことがあってもソフトウェアが無かったりで大変だったのを覚えています(笑)。
こちらの案件については、僕が入った段階では田中さんが書いたコンテからデザインが固まっていて、それに忠実にモデリングをしていく、というときでした。ちょっと凝った木の3Dオブジェクトを制作したら、はがきを重ねたときに思っていたより複雑な見た目になってしまって、最終的にはシンプルなモデルにつくり直すことがありました。
前職がいわゆる普通の3D映像ばかりだったので、こういった仕事の制作の仕方が最初全然理解できなくて…てんてこ舞いだったんですが、徐々に理解できてくると気合が入ってきましたね。「こんなに素敵なものをつくっているんだ」って。
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田中 クリスマスの設定で、当初ツリーが動くだけの想定だったんですが、もっとハートウォーミングにしたかったので”恋人”のテーマでストーリーを提案したんだけど、KITTEさんは恋人よりも家族のストーリーの方がいいという事だったので、単身赴任のお父さんという設定にして、子どもから手紙が届いてそのあと出会う、みたいなストーリーにしました。作品を見てわかる人はいないかも知れないけど、細かいところにこだわっていますね。
- 実際に作品が完成して、会場のリアクションはいかがでしたか?
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田中 作品の性質上、送った先が受けるリアクションが、本当のリアクションなのかもしれないですが、年齢関係なく手書きでみんな一生懸命書き込んでいる姿を見たときは、ちょっとうるっと来ましたね。ハートウォーミングという想定がうまくいったのかなという実感がわきました。あとは、送った手紙を送られた人は見てくれたのかな、という心配はありました。手紙は送る人と受け取る人が成立するものですからね。
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楊 いまの時代手紙を書く人が少ない中一生懸命手書きで手紙を送るっていうのは、外国人の目線からすると、日本って素晴らしいなと思います。
ビービーメディアの創作環境
- 『WHITE TREE LETTER』が好評で2016年も再び携わることになったんでしょうか。
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田中 はい。2015年の作品の評価が高くて、「引き続きやりましょう」ということになったんですけど、企画が難航して本当に時間がない中で制作しました。
テーマに関しては、2015年は来館者に手紙を書いてもらって、遠くにいる送られた人に喜んでもらうものだったので、2016年は来た人に喜んでもらえるものにしたい気持ちがあり、誰かと一緒に楽しめるものにしました。「人と人を結ぶ」という前年の作品のテーマを活かしたコンセプトになっています。センサーを使う装置を作ったんですが、なかなか粉が上手に飛ばず、仕掛け屋さんと時間のない中ヒヤヒヤしながら作りました。
- 『WHITE BREATH THEATER』(2016)は、参加者がミニチュアの街に息を吹きかけると、その息に反応して映像が浮かび上がるという内容でしたね。非常に幻想的な投影でした。
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楊 社内にモーショングラフィックスデザイナーがいたので実現できたんだと思います。2016年の映像は前例がないものだったので、外部に依頼して制作してもらうのが非常に厳しい状況でした。
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田中 社内で制作が完結したので、かなりトライアンドエラーの姿勢で制作に取り組めました。プランニングと制作が一緒に動ける機動力がなければ無理でしたね。プログラムもしかり、実現できるかできないかをその場で確認できるのは強いですね。
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楊 その場でできる・できないを見極めて提案できるのは強いですよね。
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田中 2015年もそうでしたが、社内にディレクターやプランナーと技術者が密に連携できている体制は、創作には大変良い環境だと思います。
- 2016年の反響はいかがでしたか。
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田中 60分待ちになるくらい人気だったので、それはすごく感動しましたね。クリスマスというタイミングもあって、広告的な要素以上に、楽しみたいと思ってやってくれる人が多かったのはよかったです。ちょっとしたテーマパークのアトラクションみたいになっていて、驚きました。
実際に自分も並んでみて、前にいたおばあちゃんがホームページ見て遠いところから来てくれたのを知って驚きましたね。でもそういう人も多いのかなって思いました。YouTubeで見たものを、実際に体験してみたいって人とか。
「体験してみたい」と思ってくれたことがなにより嬉しかったです。
新しい技術を使うだけがゴールじゃない
- 最後にお二人の今後の展望について教えてください。
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楊 映像だけでも、Webだけでもなく、テクノロジーと何かを巧みに組み合わせて体験してもらえる新しいコンテンツを、ビービーメディアなら生み出せると思いますし、今後どんどん提案していきたいと思います。
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田中 発信者側からすると技術的な新しい組み合わせも大事だけど、体験してくれた人や、見てくれた人の感情を動かすエモーショナルなところまで行けるような作品を作りたいです。だから、広告とか関係なく、世の中の人に楽しんでもらえるようなものを作りたいですね。
新しいことに関しては、挑戦するという意味ではいいのですが、あまり個人的には興味がなくて。技術を使うのはゴールではなく、お客さんに楽しんでもらうというゴールがまずあって、技術はその中の選択でしかないと思います。今回はシンプルに楽しんでもらいたかったので、「書く」だったり「息を吹く」という手段を選びました。
僕は今映像ディレクターの肩書きですが、もともとはFlashを作っていました。見る側に立ったのは映像をやり始めてからなんですよ。Flashをやっていたときは、イケてる動きとか、そんなことばっかで、結局重いサイトを作ってしまったり…。そんな経験を踏まえたうえで、今の考えがあります。
Flashだけをやっていたら、きっと今も技術がゴールになってしまっていたかもしれません。ひとつのことばかりやってその側面でしかモノを見れなくなってしまうより、色々なことを経験して多角的にモノを見れるっていうことの方が、とても大切なことだと僕は思っています。